序章 Einleitung


「鷹臣、見てよ!素敵ね〜!」
 宙を舞う桜の花弁を救って、桜麟が言った。
 亜麻色の長い髪に星光を照り返す絹の衣服をまとった少女、桜麟とかたや槍を手にした少年、鷹臣は城の堀周辺を歩いている。
 遼の首府、慶應府。
 大陸の西部にある草原の国……分裂した三国の一つであった。
 今は春真っ盛りで、建国の際植えられた桜が見ごろになっていた。
 堀一周、淡い紅の色だ。
 ひらひらと散って、あたりの風景を遮っている。
「おい、リン!そろそろ帰るぞ。いくら城内とはいえ父や伯父上に知れたらどうなるか……最近、黒契丹の暗殺集団も動き回っているようだし……」
 鷹臣はため息をついて、華麗に舞っている桜麟を見た。
 心配をよそに楽しそうで、美しい姿。まるで天女のような彼女との関係は親戚……もっと詳細に述べるなら伯母と甥との間柄だ。

「それと怒られるのは俺なんだ。お前は王太子妃殿下だからうるさい父上たちにとやかく言われんだろうしさ」
「それが嫌だって言ってるのに〜!!窮屈で退屈。まだ何もしてないのに決まってしまったこっちにも同情しなさいよ!あんただってまだ決まってないんでしょ!?」
 押したはずが押し返されている。確かに叔父が苦手としているのも頷ける。はるか正反対の方角からやってきた姫は、若くて美しいが気が強くておてんばであった。しかし17歳の少女が20歳以上も離れた相手と結婚させられた、という事実には鷹臣もは同情していたのだ。
「俺も16だし、そろそろ……だよな」

 なんて呟いていると。
「鷹臣っ、後ろっ!!」
 桜麟の叫び声と同時に槍が背後の黒い影を捉える。
 白い布に覆われた黒い影の唯一の色は右手と左手の武器だ。右には鋭い刀身を持つ片手用湾曲剣、左にも同じような湾曲剣を持っているが右手の剣よりも短い刀身の剣。どちらも異邦人が愛用するもの。
 相手が回避した隙に桜麟を自分の背中の後ろへ隠す。それから再び槍を構え、相手が動くのを待つ。
 対面した相手も同じことを考えたらしい。両手の剣を構え、こちらが動くのを待っていた。その間に吹いた風が布を巻き上げてくれたおかげで素顔を見ることができた。顔の左半分を金属製の仮面で隠しているがその美貌は損なわれることはない。女か、と思ったが体を見てそれが間違えであることに気づいた。幅広い肩と平らな胸がいい証拠だ。

 はっと鷹臣は我に返る。今は桜麟をつれている。正直、守りながらの戦闘はつらい。逃げることを最優先にしなくては。
「貴方、何者なのっ!?」
 一番聞きたかったことを大声でさらりと言ってくれた桜麟であったが、鷹臣は心中で絶叫していた。頼む、逃げ切るまでおとなしくしていてくれっ!!
 不機嫌という表情だった相手が、きょとんとして首をかしげている。訊かれる相手が違う、とでも思ったのだろうか。しばらくこちらを見て、それから口はゆっくり動き出した。
「私の名は劉永。安心しろ、騒がれてしまったので今日はもう引きかえしてやる。感謝してもらおう」
 剣を収めるとすっと消えるようにいなくなってしまう。どこへ消えたかと確認したときにはもう何もなかった。
 とりあえず危機は去ったようなので、決まり文句だが大丈夫か、と桜麟に尋ねる。が、何の反応もない。頬を真っ赤にしてぼーっとしていた。訝る鷹臣にも気づいてないようだ。
「あー、もう、帰るぞ……」
 当然、鷹臣が彼女を引きずって帰る事になった。

to be continued.....


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☆あとがき☆
えっと、ここからは友龍の感想です。
実はこの配布小説、隠しページにあったりしたのですが…無事発見できました(笑)
全5回のうちの第1回ということですが、2回目以降も無料配布されるのかな?
続きがとっても楽しみです♪
個人的に設定にある莫邪ちゃんがすごく気になります(笑)